トップ ヘルプ RSS ログイン

ある晴れた日




Google
 





[IN THE LIFE(復刻版)]ある晴れた日/ある雨の日−本当の不幸−

作品紹介

/*-----------------------------------------------*/
/*  [File Name] 猪鹿チョ.txt                     */
/*--------------------収録内容-------------------*/
/*  [作 品 名]  ある晴れた日                     */
/*              ある雨の日 −本当の不幸−       */
/*  [ジャンル]  短編                             */
/*  [ 著  者 ]  猪鹿チョー                       */
/*  [ 備 考 ]  Vol.1 掲載作品                   */
/*------------------------------  IN THE LIFE  --*/

《 ある晴れた日 》

 教室の窓から外を見る。俺様の教室は4階にあるためベリー見晴らしがいい。俺様の視界には青い空と街、そして我が校のグラウンドがうつっている。俺様はそのグラウンドに目をやった。2年の女どもが鉄棒の周りに群がっている。体育の授業だろう。今日は3年のみテストだから1・2年とは時間割がずれているのだ。あいつらもいずれ経験することになるのだが、こういうときは妙に羨ましく思う。
 おもむろに教室に目をやると、うつけどもが最後の追い込みなどという無駄な悪あがきに精を尽くしている。
 「ふっ」
   俺様はそんな奴らを鼻で笑いつつ、再びグラウンドに目を向けた。
 6月下旬、梅雨特有のちょっと蒸し暑い陽気である。時刻は10時30分。徐々に暑さを増してゆく時間だ。まあ朝からすでにあつかったのだが。
    雲一つないスカイブルーの中
    燦々と輝く太陽
    その強い日差しに照らされる少女
    まだ顔は幼くあどけない
    but
    その白く細い、それでいて健康的な肢体
    まさに大人のものである
    うっすらと浮かび上がる汗が眩しくかつ淫らである
    うーん ポエマー (正しくはpoet)
などと自己陶酔&あらぬ妄想を抱いてる間に休み時間は終わった。

 ティーチャーが来てもまだ教科書を閉じない輩もいる。
「全く困ったものだ、お勉強は前日までにきちんと済ませておかなくては」などと口には出さないが顔がまじまじと物語っているのは大仏だ。大仏と書いてダイブツと読むこの男、試験官のティーチャーである。普段は現国の担当で、生徒に音読させている間に自分は居眠りをしていたというとんでもない耄碌ジジイだ。大仏はあだ名なのだが、その名の由来は体型+顔+髪型(パンチパーマ)のせいであろう。誰が言い出したのかは知らない。ズラではないかという説がかなり有力であるが定かではない。
まあ、やな奴ではある。
「それでは、これから英語の試験を行う。試験時間は90分。問題用紙3枚と解答用紙が1枚だ。全員ちゃんとあるか確認して名前を書くように。でははじめ」
 チャイムと同時に大仏のずぶとい声が響く。
 そして待ってましたとばかりに生徒たちは一斉にテストに取り組む。
「うぉー 全然わからねぇ」
「ラッキー やま当たり!」
「やべっ、範囲間違えた」
「全部で4問、和訳10点英訳15点として配点が30,50,60,60だから楽な1と2だけタカシ[=隣の人]の見りゃいいか」
「やだっ、ヒサシ君ったらモッコリしてる」
「やだっ、ヨーコったら ヒサシ君の見て喜んでる」
「大仏が寝たときがチャンスだな」
E.T.C
 教室の中では声には出さないが、様々な思いが頭をよぎっていた。
 まあこんなテストくらい俺様にとってはbefore breakfastである。
 俺様には推薦で早くに合格を決めて、免許取って、バイトして、ナンパして、かーいー彼女を愛車の助手席に乗せてドライブ行って・・・! というスーパーハイパーウルトラグレートワンダホービューチフルかつスペシャルナイスまプランがあるのだ。言うなれば今回のテストは俺様にとって輝ける未来へのパスポートってところこな。
 おっといけねえ。テストに集中しなければ。
 俺様はくだらない妄想をやめ、再びテストに向かった。
 始まって20分くらいたっただろうか。教室の中には鉛筆を走らせる音、紙をめくる音、そしてほんの少しの寝息だけが響いている。俺様も調子よく問題をこなしていた。
 そのときである。
「ぬおぉっっ!」
 思わず叫びそうになった。
 まさに青天の霹靂。俺様の腹、正確に言うと腸がセルモーターの様にキュロロロロと悲鳴を上げたのだ。そして体の中をフリーフォールが落ちていくように一気にきた。
 来たと行っても北ではない。いわゆる一つの腹下しである。下痢ともいう。
 俺様は瞬時にけつを締める。
 今にも放出してしまいそうな勢いである。
俺様はなんとか抑え込むことに成功した。しかしもうテストどころではない。急いで原因究明にあたる。「寝冷えか?・・いや違う。食い合わせも悪くねえだろ。さては昨日の・・・・!」
 再び俺様の思考を止めたモノ。第2弾である。
 右手は鉛筆を握ったまま、左手は腹に当てる。
 少しさすってみる。
 たいして役にたたない。
 この学校にはエアコンなんて気のきいた物はない。だから今はむちゃくちゃ暑いはずなのだが、今の俺様は寒気さえ感じる。額を流れ落ちるのも冷や汗なのかもしれない。
 早く時間がたってほしい一心で時計を睨んでいるのだが、こういうときに限ってゆっくりと時を刻む。
 俺様は時計を見るのをやめた。
 ギュルルルル 大腸がまた呻く。
 再び力を入れ直す。
 なんとか意識をそらそうと頭の中でバラードを奏でる。しかしその曲は3倍速くらいで流れすぐに終わりをむかえる。
 試験終了まで残り45分。「このまま耐えるか、それともプライドを捨てトイレに行くか、しかしここで出ていったらウンコ太郎になってしまう。でもいつまで耐えられるのか、もし限界まで耐えたとしても動くことができなくなってしまう。トイレまでの移動を考慮すると耐えられるのは90%程度・・・さあどうする・・・・」
 もうここまで来るとメアリーやキャシーがどーの、仮定法や受動態がどーのなんてどうでも良くなってくる。一応選択問題だけ必死の思いでこなしたが、他は見る気さえしなかった。
 ここで不幸なことに新たな問題が生じた。GASである。
 こういう場合たいていは悪臭であり、さらに悪い場合、実まで顔を出しかねない。もしそうなったら俺様の青春は終わりである。残りは後30分。ここまでよく頑張ったと思う。自分でも感心する。しかしもうだめだ。体がふるえている。
 俺様はプライドを捨てた。心の中で「教室で漏らすよりはましだよな」という結論に達したのだ。そして行動に移した。
 ところが俺様はここで、人生最大の不覚のうちでも屈指のミスをおかしてしまった。手を挙げるだけならまだしも「先生」と口走ってしまったのだ。俺様としては不正をしないという意味で許可を取ろうとしたのだが、その素直さが裏目に出て大仏は寝ていたのだ。つまり俺様は自らクラスメイト全員に「こらからウンコしてくるぜ」と宣言してしまったことになる。俺様の席は最後列窓側、教室のドアはすでに全開,皆はテストに夢中,まことにおばかであった。
 皆、こちらに注目した。
 瞬時にそれを悟った俺様は問題用紙を見ながらあたかも質問があったかのように考え込むふりをした。そして皆の気がそれた頃、そぉーっと教室を出たのだが、背中に冷たい視線を感じていた。
 俺様の学校は1・3階に女子用、2・4階に男子用のトイレがある。これは元男子校であることの名残なのだが、俺様は2階のトイレに向かった。4階は避けたかった。
 俺様は階段は降りた。
「うひょひょひょひょ」
 階段を降りるという行為は予想以上に酷であった。
 3階に降りたとき、まさに極限状態であった。
 俺様は急いだ。一刻の猶予も許されなかった。
 トイレに駆け込む、一番手前のBOXに入り、ドアを閉める。
 ベルトをはずす、驚異的なスピードで動いていた。トイレに駆け込む選手権なるものが存在したなら、おそらく今の俺様はナンバー1だろう。
 泣き面に蜂・・・今日に限ってリーバイス501、ボタンフライであった。
「くそぉ」
 素人はトイレに入ったというだけで安心してしまい緊張を解いてしまいがちである。だが「家に帰るまでが遠足」と小学校の校長がスピーチするように最後の瞬間まで気をゆるめてはいけない。俺様は素早くボタンをはずし、2枚同時に下ろす。
 便座に腰掛ける。
「ふう」
 思わず安堵のため息がもれる。この時ほど神に感謝したことはない。
「ああ神様ありがとう。こんな俺様・・・じゃない、こんな僕を救っ・・・」
 とそのときである。
「ねえねえ、ヒロくんったらキョウコのこと好きなんだって」
「ええっ、うっそぉホントなの。誰に聞いたのぉ?」
「誰にも言わない?」
「うん、絶対誰にも言わない」
「えっとねえカズくんに聞いたのぉ」
 俺様のBOXのちようど外側で会話が始まった。それも「もっとハキハキしゃべらんかい」と後ろから縛って・・・じゃない、後ろから”しばいて”やりたくなるような口調で。
 さてここで、賢明な人は既にお気付きだと思うが、ココは女子トイレである・・・。と言っても俺様はそこまで変態ではない。好き好んで入ったわけではない事は分かってほしい。2階までもたなかったのだ。
 しかしこのシチュエーションでそんな弁解を計ったとて、誰もきいてはくれないだろう。
 俺様は、用もないのにただ内緒話をしに来たバカ女どものせいで、再び忍耐を強いられる事となった。
「くおおおぉぉ」
 声にならない叫びがもれる。
 2年と時間割がずれているのをポックリ忘れていた。
 さらに2年女子が次から次へと入れ代わり立ち代わリトイレに入って来る。
 休み時間は15分あり、1・2年の授業開始まではあと5分もある。
「はあぁ−−−」
 北斗の拳のケンシロウのように、気合を入れてけつを締める。
 座ったままだと力が入らないので、下半身丸出しのまま立つ。音
を立てないように気を付けながらふんばる。人間は普段、潜在能力のほんの30%(?)しか使っていないと言われている。それ以上の力を「火事場のクソカ」と呼ぶこともあるのだか、今の俺様はまさにそれであった。
「これがホントのクソカ」
 などとくだらない事を思いながら気をそらそうとする。もちろん力は緩めない。
 こうして俺様はなんとか休み時間をしのぐ事に成功した。
 耳をすまし、誰もいないことを確認して再び便座に腰をおろす。
 心地よい至上の快感が身体を包み込む。

 何とか俺様は事なきを得た。
 ジーンズのボタンを閉じ、ベルトのバックルを閉める。
 背伸びをする。体が軽い。
 理由も無く、ついブツを見てしまった。とても見れる代物ではなかった。なぜ見てしまうのだろう。そういえば、鼻をかんだ後もそうだ。
「まっいいか、そんな事」
 鼻唄まじりで水洗のノブを回す。
「・・・・」
 回す。
「・・・・・どおしよお・・・」
流れない。
数回ひねってみる。
「おっ!  あぁあ」
やっと水か出たと思ったら、雀の涙ほどの水がチョロチョロと申し訳なさそうに流れて行く。
「こんなんじゃしょうがないよなぁ」
 俺様は便器の蓋を閉め、その上に腰掛ける。
「さてどうしたものか」
 考えながら辺りを見回す、と言っても狭いBOXの中なのだか。
 しかし、冷静に考えるとここは女子トイレである。見慣れない箱がある。
「あのこもここにすわったんだよな。けつどうしのかんせつきっすってか?・へっへっへっへっへっ・・・・なめちゃおっかなぁ」
一人で不適に笑う。
「なぁ−んてね。さてと、冗談はここらへんにしてそろそろ動くか」
 座った女の中にゃいろいろな女がいる。当然、当たりだけとは限らない。
 俺様は行動を開始した。
 俺様が考えた対処法はいくつかあった。バケツで水を汲んで来て流してみる方法。トイレットペーパーを大量に手に取り人力で流し込む方法。などなど。
 いずれも失敗した場合、取り返しかつがなくなる様な気がしたのでやめた。ただ、一番つらいのは応援を求められない事とトイレに有るあのスッポンの様なやつが無かった事だ。
 で、俺様が最終的に選んだ手段とは「逃走」である。誰もまさか俺様が女子トイレで下痢ぴーなんで思うまい。
 「誰もいないよなあ」
 一応警戒してそおぉっとドアを開け、外に誰もいないことを確認する。さっきまで、あれだけ変態的な独り言をつぶやいておきながらいまさらという気がするのだが、とりあえず顔を見られると非常にまずい。
 「よしつ。誰もいない」
 俺様はまず大量のトイレットペーパーを使器の中に突つ込み、ブツを隠してから蓋を閉め、ドアに鍵をかけた。
 「おっし。いっくぞぉ」
 俺様は蓋を閉めた便器に足を乗せ、ドアの上の鉄枠に手をかけた。そして手に力を込めながら跳ぶ。俺様の身体は極わずかの鉛直投射運動をし、落下の瞬間俺様の両手に全体重を託す。
 「くっ」
 むっちゃくちゃ手が捕え。鉄棒は実はU字型だったのだ。
 それでも俺様は踏ん張り、懸垂の様に腕力で身体を引き上げる。
 「ふっ、ほっ、うがっ、うぉりぁあ」
掛け声につれて俺様の身体は少しずつ上がっていく。
 てっペんに上りきった俺様は、もう一度人のいないのを確認してから跳び降りた。
「あらよっと」
 足首と膝のクッションを使って衝撃を吸収する。着地の瞬間の音もそれほど響かなかった。
 廊下の様子をうかがってから「そっこう」で階段を駆け上がる。もちろん音には気を使う。階段を上る毎に徐々にスピードを落としてゆき、4階に着いた所で一時停止。
 大きく深呼吸。3回線り返す。
 ここからが大事である。クラスの皆に、いや、それ以上に大仏に見つかりたくない。あいつが勝手に寝てたとは言え、言い訳の聞く相手ではない。俺様は大仏がまだ寝ている事を願いつつ動き出した。
 俺様は、音をたてないように細心の注意をはらって一歩、また一歩と教室の中へ足を進めた。スピードと音のバランスが絶妙であった。
 大仏はよだれを垂らしながらまだ寝ていた。ラッキーだった。だがしかし、テストを終えて暇をもてあましていた連中がこちらを見ていた。アンラッキーだった。
 俺様は自分の席に戻って来た。長い旅から帰って来たような気分だった。そして、とても平和に思えた。
 教室の中は2割が寝ている。3割は起きてはいるが既にやる気がなく、消しゴムや鉛筆で遊んでいたり、外を眺めたりしている。そして、大仏を標的に消しゴムをちぎって投げるもの数名と、カンニングに精を出すもの数名を除いては最後まであきらめずに努力している。
 「!」
 俺様は時計を見た。残りはたったの5分しかない。あわててテストに向かう。
 l枚目しかやっていない。2枚目以降も選択問題だけ書いてはあるが、半分はいいかげんである。
 焦りまくりながら問題文を読む。
「さあ やろう」と答えを書こうとした瞬間にチャイムが鳴った。
 諸行無常の響きあり・・・
窓の外には、雲一つない青空が広がっていた。

                                  <完>

《 ある雨の日 −本当の不幸− 》

 ある晴れた日の翌日のこと。俺様は傘をさしながら自転車に乗って登校した。テストも昨日ですべて終わったし、きつい授業もなかったのでかなり気楽だった。
 ところが、教室へ入った俺様を見る皆の目が何かいつもと違ったのだ。俺様は「昨日テスト中にウ〇コに行ったことで好奇の目で見でるんだろう」と思っていた。

「変なあだ名が付かなきゃいい」と願っていると一人の女生徒が近づいて来た。クラスのリーダー的存在で男女両方に人気のあるリョウコだ。
 実は俺様はこいつに惚れていたのでドキドキしていたのだが、いつも笑顔を絶やすことのないリヨウコが怒っているようだ。
 「なに?」
 俺様は勇気を出して聞いてみた。
 リョウコは俺様の問いには答えず、右手を差し出した。そのなめ
らかな指先にはティッシュに包まれた生徒手帳があった。
 俺様がそれを受け取ると、リョウコはすぐに踵を返してしまった。一言「最っ底」と言い残して。
 その日僕は早退して、傘もささずに走って帰った。その手にサンポールの匂いのする自分の生徒手帳を握りしめて・・・。

コメント

兄弟サイトリンク

land.to 広告


関連情報


人気ページ

検索

キーワード
AND OR